不妊症治療で行う検査について
検査によって不妊原因の全てが特定される訳ではなく、判明するのはほんの一部にしか過ぎません。つまり検査で異常なしということは、言い換えれば不妊原因は原因不明ということであり、現代の医学では解明出来ない大きな異常が隠れている可能性を考えておく必要があります。一般的な検査順序は、次の通りです(同時に並行して行うものもあります)。
経膣超音波診断
ほとんど全例の初診内診時に実施します。膣内に親指ほどの大きさの超音波を発信する器具を挿入し、子宮や卵巣の状態をモニターに映し出す検査です。経膣超音波によって子宮・卵巣の情報が詳細かつ簡便に分かり、形態学的異常(子宮筋腫、子宮腺筋症、卵巣嚢腫など)があるかないかなど、不妊治療を始める上では欠かせない検査です。特に排卵直前では卵胞(卵巣内に存在する卵子が入っている袋)の計測が可能で、排卵時期をほぼ正確に予測できます。それと同時に、胚が子宮内に到達して、妊娠成立の最初の現象である着床をうまく起こしてくれるかどうか、子宮内膜を形態的に判断することが可能です。更に、実際に排卵したかどうかも卵巣の形態的変化を見ることで的確に診断できます。体や胎児への影響はありません。
クラミジア検査
クラミジア感染症は、20~30代に多く認められる感染症です。ほとんど無症状のため、子宮の入口からお腹の中へ時間とともに感染が広がるまで放置することが多く、卵管の周りの癒着や卵管閉塞などを引き起こします。これが不妊症の原因となるケースが増えていますが、夫婦ともに抗生物質を内服することにより治療出来る為、早期発見が重要です。検査は子宮がん検診と同様に簡単な検査でできます。
精液検査
男性不妊は、不妊原因の約50%を占め、精液の所見によっては治療レベルの考慮が必要となる為、極めて重要な検査です。2~3日間程度の禁欲後に精子の濃度や形態、運動性などを検査します。精液の所見は、日によって大きく変動がある為、2から3回程度の反復検査が必要となります。
子宮卵管造影検査
女性側の不妊原因として一番多い卵管の異常は、この検査でほぼ判明します。不妊症の原因として卵管因子はかなりの率(約20~30%)を占めるとされています。すでに妊娠の既往がある方も1年以上の期間が経っていれば、続発性不妊症と考えて実施した方が良いと思われます。検査は予約制で、月経終了後から排卵前の間に行うレントゲン検査です。子宮の入口から細いチューブを入れ、造影剤という溶液を注入し子宮の形や卵管の通過性、卵管采周囲の癒着の程度を調べる検査です。また、検査後は妊娠しやすくなる為、検査目的に限らず治療目的も兼ねています。卵管は、卵子や精子の通り道であり、受精の場なので、詰まっている場合や癒着している場合は、妊娠の大きな妨げとなります。当院ではこのような場合でも、腹腔鏡下及び卵管鏡下卵管形成術により治療が可能です。検査所見によっては治療レベルの考慮が必要な為、この検査は早期に済ませておくことをお勧めします。
血液ホルモン検査
基本的なホルモンの流れを知るための検査は、月経中に行います。脳下垂体から分泌される2つの性腺刺激ホルモン(卵胞刺激ホルモン:FSH、黄体化ホルモン:LH)が卵巣を刺激し、卵胞発育と排卵を促すと同時に卵巣から卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)を分泌させます。極度の月経異常や排卵障害の場合は、障害部位を特定するためにLH-RHというホルモンを投与して脳下垂体の反応をみるLH-RHテストを行います。また、脳下垂体から排卵障害に関与する乳汁分泌ホルモン(プロラクチン:PRL)というホルモンの分泌が亢進していることがあります。また、日中に測定したPRLの測定値が正常であっても、夜間に上昇して排卵障害や黄体機能不全を起こすことがあり、これを潜在性高PRL血症といいます。診断には、TRHというホルモンを投与して、脳下垂体からのPRL放出の反応から異常の有無を確認をする検査を行います。また、正常なホルモンの流れに影響を及ぼす男性ホルモンや甲状腺ホルモンの測定も欠かせません。また、排卵が正常であっても妊娠を維持するホルモンが足りない場合は、支えきれず月経が来てしまいます。排卵から1週間頃に卵巣から着床に十分なホルモン(プロゲステロン、エストロゲン)が出ているかどうかを検査します。
当院では院内検査で施行可能なため、体外受精前の排卵誘発時など、迅速に検査結果が必要な場合は約45分で検査結果をお伝えできます。
当院では院内検査で施行可能なため、体外受精前の排卵誘発時など、迅速に検査結果が必要な場合は約45分で検査結果をお伝えできます。
性ホルモンの基礎知識
FSH(卵胞刺激ホルモン)について
脳下垂体から分泌されるホルモンで、卵巣に作用して卵胞(卵巣内に存在する卵子を内包している袋)を発育させる作用があります。また、LH(黄体化ホルモン)とともにエストロゲン(卵胞ホルモン)の合成を助ける作用があります。血液中のFSH値から、卵巣がどれくらいの卵胞を発育させる能力があるのかを予測できます。このFSH値が異常に高い場合、卵巣の機能が悪いことを意味しています。
LH(黄体化ホルモン)について
LH(黄体化ホルモン)は、脳下垂体から分泌されるホルモンで、成熟した卵子を排卵させ、黄体を形成させる作用があります。排卵の約36時間前にピーク状に分泌されます(LHサージ)。この血液中や尿中のLH(黄体化ホルモン)を測定することにより排卵の時期を予測することが可能です。
エストロゲン(卵胞ホルモン)について
エストロゲン(卵胞ホルモン)は、卵巣にある顆粒膜細胞と呼ばれる細胞から分泌され、卵胞期(基礎体温の低温期)に子宮内膜を厚くして、排卵前に子宮頚管粘液量を増加させる作用があります。
プロゲステロン(黄体ホルモン)について
プロゲステロン(黄体ホルモン)は、排卵した後に形成される黄体から分泌されるホルモンです。子宮内膜に作用して内膜の性状を変化させて胚が着床しやすい環境にしたり、子宮の筋肉の緊張を低下させます。黄体期(基礎体温表の高温期)のプロゲステロンの値より黄体機能を評価することができます。黄体機能不全は着床障害や流産の原因になります。
プロラクチン(乳汁分泌ホルモン:PRL)について
下垂体から分泌されるホルモンで、乳汁分泌ホルモンという名前の通り、分娩後の授乳時に多く分泌されるホルモンです。このホルモンは、男女ともに正常でも少量分泌されていますが、値が高くなると男女ともに不妊症の原因になります。女性では、PRLの値が高くなるのにしたがって、排卵障害、無月経、黄体機能不全になります。日内変動もみられ、日中の血液検査でPRL値は異常なしでも、実際には夜間・睡眠時にホルモン値が高かったりする人がいます。
TSH(甲状腺刺激ホルモン)および甲状腺ホルモン(T3・T4)について
脳下垂体から分泌されるホルモンで、甲状腺を刺激して甲状腺ホルモン(T3、T4)の分泌を促します。甲状腺ホルモンは体の基礎代謝に関係している大切なホルモンで、多すぎても(甲状腺機能亢進症)、少なすぎても(甲状腺機能低下症)、不妊の原因になる事や、流産や死産、児に異常を生じることがあります。
AMH(アンチミューラリアンホルモン)検査
AMHはアンチミューラリアンホルモン(または抗ミュラー管ホルモン)の略で、「供給されている卵子の数」を現しています。よく誤解されるのが、AMH値が低い=(イコール)妊娠率も低くなると思われがちなことです。たとえばAMH値を測っていないから知らないだけで、実はほとんどゼロに近い数値でも自然に妊娠・出産している人はたくさんいます。要するに、AMHは妊娠率を語りません。卵の数が少ないということは妊娠率が低くなるということではなく、不妊治療をできる期間が限られてくるということを示すのであって、「AMHが低いからほとんど妊娠できない」ということではありません。AMHは個人差があります。卵子は加齢に伴い減少します。AMHの高値、低値は健康上何ら問題ありませんが、AMHが低下することは、すなわち発育してくる卵子の数が少なくなる事を意味しています。個人差もありますので、AMHの値は卵巣予備能の大まかな目安としてお考え下さい。